すきということ 「ボボボボっ僕、ププレプレプレセアの事、大好きだよっ!!」 「………そうですか。ありがとうございます」 「あ…うん…」 僕とプレセアの会話。今日もそこで終わってしまう。 プレセアにとって、僕が『好き』と言ってる事は、『ご飯をどうぞ』と同じくらいの事なのかな? そう思うと、本当に悲しい。 いやだって、本当に相手にされてないし、僕。 はぁぁぁぁ、と思わず重い溜息すらでるよ…。 「お〜?くそがき、な〜に溜息なんか吐いてんだ〜?」 あー、来たよ、万年脳内ピンク男ゼロスが。 でもこういう相談なら、こいつが一番適任かもしれない。 だってロイドとコレットじゃ絶対分かってくれないし、姉さんは問題外。 しいなだと子ども扱いされて冷やかされて終わるだけだと思うし。 リーガルさんは何と言うか…、敵だと思ってる。 まぁゼロスも結構冷やかしてきたりするんだけどね、でも最後にはきちんとアドバイスをくれる。 そういうところを見ると、意外にいい奴?とか思ったりするんだけどねぇ。 結局世界中、ありとあらゆる女の子を追っかけてるのに違いは無いから。 「…僕、プレセアに好きって何度も言ってるのに、一向に相手にされてないっていうか…」 「ほうほう。それはだな、プレセアちゃんがお前の事をがきんちょ扱いしてるからだな。 だから 本気の好きだって言ってる事に気付いてないんだろ。かなし〜ね〜」 ムカ。でも本当にそうみたい、と思っちゃうから反論できないよ〜…。 確かに僕は、12歳だけどさ。でもプレセアの事、本気で好きなんだ。 初めて会った時に、ドキッとした。顔が真っ赤になってるのに気がついて、動揺した。 一緒に旅をし始めて、姉さんやロイド達に思う『好き』とは違う『好き』だって気がついた。 それを、早くプレセアに伝えたいって思ったのに…。 「あのな、くそがき。んなに焦んなくてもいいと思うぜ?俺様はよ」 「…くそがき言うな。…だって、プレセアは可愛いから、きちんと『好きだよ』って伝えなきゃ、 他の違う誰かを好きになっちゃうかもしれないじゃないか。僕、そんなの嫌だ」 「………リーガルのおっさん見ながら言うなよ、お前」 仕方ないじゃないか。一番恋敵になりそうなのってリーガルさんだもん。 確かにアリシアさんと恋人同士だったってのは分かるんだけどね。 注意しといても罰はあたらないもんね。 「それにな、お前本当にプレセアちゃんが好きなのか?結構一目惚れで勘違いって事もあるんだぞ?」 珍しいな、ゼロスが僕に質問してくるなんて。案外ゼロスの体験談だったりしてね。 勘違い?…そんなの分からない。だって分からない事だらけなんだもん。 幾ら勉強しても分からない、幾ら知識があっても全く分からない。 「勘違いって、意外に嫌なもんだぞ。相手も、自分も傷つくからな。だから、よく考えないと いけねぇんだよ。 ま、お子様にはちょっと早かったかな〜?」 言うだけ言って、ゼロスはソッポを向いた。ちょっと卑怯だよねぇ。 だから僕は後姿のゼロスに向かって言おうと思った。 「…ゼロスは勘違いかもって言ったけどさ。そんなの僕にも分からないよ。でも、僕はプレセアと 一緒に居て、楽しい。嬉しい。ドキドキするよ。そんなにするのに、僕は勘違いだなんて言えないんだ。 それっておかしいと思う?」 ゼロスがそれを聞いて振り返った。 僕はこの時、きっと真っ赤になってたに違いない。 だって結構恥ずかしいんだよ?こういう自分の胸の内を人に伝えるのって。 またからかわれるんだろうなぁなんて思ってたんだけど、ゼロスの行動は予想外だった。 ただ、ふっと笑った。何だか切ない表情な気がした。気のせいかな? それを聞こうとしたら、聞く前に僕を呼ぶ声が聞こえた。 「ジーニアス、少しいいですか?」 声の方を向けば、プレセアが僕を呼んでいた。何か、それだけで嬉しい。 「ほれ、行ってこいよがきんちょ。一緒に居たいんだろ?ずっと」 とんっと僕の背中をゼロスが押していた。 そのまま僕はプレセアの所に駆けていく。 プレセアは困ったような、申し訳ないような顔をしていた。 こういう顔も、可愛いなvvv 「ジーニアス、今日、私が料理当番なんですけど、ちょっと手伝ってもらっていいですか?余り 料理が得意では ないので、色々教えてほしいんです」 頼ってくれるんだ…。そう思うと、凄く嬉しかった。二つ返事でOKした。 ゼロスじゃないけど、焦らなくてもいいかなって思った。 こうやって、一つずつ嬉しい事とか、楽しい事とかを積み重ねていけばいいのかな。 だから、何時でも、何度でも言うよ。君にいつか伝わるように………。 「お〜、いっちょまえに男の顔しやがって。何時までもがきっていじめらんねぇなぁ〜」 「何やってのんさ、ゼロス。こんなとこで、1人で」 気が付いたら、しいながいた。 全く気が付かなかったゼロスは少し驚いて、何時もの顔に戻った。 何時ものふざけている道化の顔に。 「い〜や、別にな〜んにも。ただちょっと人生相談にのってただけ」 「はぁ?あんたに人生相談?そんなことしたら、ホントに人生狂っちまうよ」 「おいおい、酷ぇなぁしいな。これでも俺様、色々考えてるんだぜ〜?」 「例えば、何だよ。言ってみてごらん」 「そ〜だなぁ。世界で待ってる可愛い〜女の子の事とか〜。明日確か料理当番リフィル様だった なぁ〜とか………」 「う…、それは私も考えないとねぇ…………ってそーいう悩みかいっ!!ったく、聞いて損した よ!!!」 ぷんぷん怒って、しいなは皆の所に行ってしまった。 行ってしまったのを確認して、ゼロスは大きく伸びをした。 先刻の話には続きがある。絶対に本人を目の前にしては言えないけど。 「……あとは、お前の事とかな…ってか。あ〜あ、俺様素直じゃねぇの!!」 「うんvちゃんと素直になった方がいいと思うよ?ゼロス」 気配を感じさせず、その少女はにこにこして自分の横に立っていた。 「コココココココココっコレットちゃんっ!??」 「その方がしいなも喜ぶと思うなぁ〜」 絶対に誰にも聞かれてないと思っていた分、思いっきり驚いてしまった。 コレット本人は悪びれもせず、話を続けていく。 「………何時から居たの?コレットちゃん」 「え?最初から居たよ?あっちの方に、ロイドと」 そういえば少々遠くにいた気がする。でもそんな所で話が聞こえるはずが…。 そう思って、自分の浅はかさにやっと気が付いた。 コレットは天使なのだ。物凄く耳がいい。遠くの話し声も聞こえるとか言ってた。 「……コレットちゃん、この事皆に内緒にしててね?」 「もちろんだよ〜。こういう大事な事は、ゼロス本人がちゃんと言わなきゃね!」 言う言わないは別にして、とりあえず言わないで居てくれるらしい。 それには正直ホッとした。絶対に、特にしいなには知られたくない。 「それに、すぐに言っちゃったら、今後ゼロスの事、脅せないもんね。切り札はちゃんと取って おかなくちゃ」 「あ…そう………」 これからは絶対にコレットに逆らえない、そう思うしかなかった……。 「でもね、ゼロス。本当にちゃんと言わなきゃ駄目だよ?全部無くなってからじゃ、遅いから…」 ふっとコレットは真顔に戻って、それを言った。 しかしその顔は一瞬にして普段ののほほん笑顔に戻り、ロイドの所へ行ってしまった。 それを見るゼロスの表情も、真剣だった。 「………そんなの分かってるさ。だけど、俺様素直じゃないからなぁ。きっと後悔して、死ぬん だろうなぁ〜」 今度こそこの呟きは誰も聞いていない。 視線を、一生懸命料理を作っているジーニアスとプレセアに移した。 何とも初々しいではないか。思わず微笑みたくなる、というのはこういうのを言うのだろう。 自分は、決してもうあの2人のようには戻れないから。 「……ジーニアス。俺みたいな奴に、ぜってぇなるんじゃねぇぞ……。好きな女を悲しませるよ うな奴は、最低 だからな…。俺様、みたいな、な」 その呟きは切ない。決して拭えぬ過去。 そして誰の耳にも、入らない………。 |
END |