おはよう ユニシスは目覚まし時計が無くても毎日同じ時間に起きる。 ただ、今日という日は妙に眠くて。 でも朝ご飯を作らなきゃならなくて。 そんな風に布団の中で、自分と葛藤していたら。 ちゅどーん。ぐらぐらぐら。 なんとまぁ爆発音。ついでに凄い震動。 それは彼に葛藤する事を忘れさせ、ベッドから飛び降りるには十分なものだった。 「ななななななっ!!!なんだぁ!!?」 もう眠いもクソもありゃあしない。爆発の現場へ急行する。 途中、ヨハンにも会う。流石に今の音と震動で目が覚めたらしい。 だんだん現地に近づいてるのが分かり、そして現場が台所だという事が分かった。 近づくにつれ、煙が凄いからだ。 ユニシスにしてみれば、もう大体予想がついている。隣のヨハンも同じだろう。 ここまで酷いのは今まで無かったが、こーいうことは初めてではない。 台所の目の前まで来て、ユニシスは煙を吸い込まないようにして叫んだ。 「おい、アクア!!!出て来い!!!!」 台所は、凄い有様だった。 もう殆ど昨夜までの原型を留めていない気がする。 その中に、1人の少女が顔を黒くして、片手鍋を持って、『けほ』とか言ってる。 ヨハンは急いで少女――アクアに近づき、頬の煤をふき取ってやる。 「大丈夫でしたか?…一体どうしたんですか?アクアさん」 ヨハンの問いにアクアは、いつも通りの口調で答える。 「あさごはん、作ってたの。ちょっと失敗。でも、のーぷろぶれむ。次は失敗しないわ…」 黒焦げの片手鍋を洗い場に置き、更に作ろうとするアクア。 ヨハンも止めようと思うのだが、いい言葉が浮かばない。 だが、その役目はユニシスに受け継がれていた。 いい言葉ではなかったが。 「つくるなぁぁあっ!!!ったく!お前、真面目に作れないのに、何で作ろうとするんだよっ!」 「…だって、私…」 「だってもヘチマもなあぁぁぁい!!!もー、お前飯作るなっ!!分かったな!!!」 アクアは少し唖然とし、しかし答えようとした。 だがその言葉はユニシスの怒りの前に消え去ってしまった。 「でも…私、ユニシスに…」 「わ・か・っ・た・な!!!」 何か言いたげなアクアをユニシスは押さえ込む。 流石にそれは自分が悪いと分かってても、ムッとする。 アクアはむちゃくちゃ機嫌が悪そうに、ユニシスを睨み付けた。 「……ユニシスの、わからずや。へっぴり腰。……ばか」 言いたいだけ言うと、アクアはプイっと怒った顔で何処かに行ってしまった。 ユニシスは「まだ説教は終わってないぞ!!」と怒ったが、アクアは全く聞こうとしなかった。 ヨハンはユニシスの肩をポンと叩き、 「…ユニ。少し言い過ぎだったんじゃありませんか?」 と、嗜めるように言った。 しかしユニシスも引くつもりは無いらしい。 「いーんですよ、あのくらいで。ったく、この片付けをする方の身にもなれってんだ」 とブツブツ言い、片付ける為の準備に向かった。 ヨハンはそれを黙って見ていて、次に破壊された台所を見回した。 これは、今までで最高の壊れ方かもしれない。 ちょっと内心、予算の計算をしていた。 その頃アクアは、神殿に来ていた。 そしてその一角のとある部屋を訪ねる。 「びしょーじょとーじょー…。入っていいかしら?」 「いいですよ。どうぞお入り下さい、お姫様v」 中に居たのは、何時も不可解な人形を持っている、シリウスだ。 何時もニコニコ笑顔なのも特徴的だと思う。 「……おりょーり作戦、失敗。もう作るなって言われたわ」 「おやおや、それは酷い言い様ですね。こんな可愛いお姫様が作ってくれたのに」 シリウスが何時ものように言うと、アクアは首を横に振った。 「…作る前に、だいばくはつ。…台所、めちゃくちゃ」 それを聞いて、シリウスは苦笑いする。 大爆発を起こしては、普通作るなというだろう。 しかしそんな事は決して言えない。この少女が本気で頑張ってるのを知っているから。 「……おりょーりは、駄目。だって私よりユニシスが作った方が、おいしいもの。ほかの作戦、 でんじゅしてもらえないかしら、こいのきゅーぴっとさん」 アクアから相談されたのはつい2日前。 勉強をしている時に、『どうやったらユニシスの気を惹けるか』と聞いてきたのだ。 普段はポーカーフェイスな少女が、恥ずかしそうに赤らめて。でも真剣に。 だから『料理の上手な人には、やはり大いに好感を持ちますよ』と言ったのだ。 それがこの結果である。 アクアが料理を苦手としている事を下調べしておかなかった事を少々悔やみ、 だが大爆発した台所をちょっと見てみたいと重いつつ、彼は新しい策を考えた。 「もう少し…、大胆に行った方が良いかもしれませんね。こういうのはどうでしょう?お姫様」 シリウスはアクアの耳元で、ヒソヒソ伝える。 この部屋には彼ら以外いないから声を潜める必要は無いのだが、こういうのは雰囲気の問題だ。 その作戦を聞いたアクアの顔は、何時もの悪巧みする時の表情と変わらず、楽しそうだ。 「…うむ、なかなかいいわ。それでいきましょう…ふふふ」 「そうでしょう?お姫様の為なら、色々考えますよ、私は」 「…ありがとう、さんぼーちょー。これからもきたいしてるわ」 アクアは報酬のほっぺちゅーをして、早速魔法院に帰ろうと外に出る。 「頑張ってくださいねー、姫v」 シリウスはひらひらアクアが見えなくなるまで手を振った。 ―――翌日――― ヨハンは健やかな睡眠を貪っていた。 人間、起きそうで起きないこの瞬間ほど気持ちいいものも無いと思う。 しかも昨日は爆発音と激しい震動で目を覚ますという余りにも悲しいものだった。 だから今日は、少し寝坊をしてしまいましょう、そう思っていた。 「わぁぁぁぁぁぁっ!!!!なななななななんでお前がここに居るんだぁぁぁっ!!!」 その声に驚いて、ガバッと起き上がり眼鏡を掛ける。 何だかよくわからないが、今日も惰眠を貪ることは、出来なさそうだ。 はぁ…、っと思わず溜息が出てしまった。 ユニシスはうとうとしつつ、目を覚ましかけていた。 流石のアクアも、昨日の今日でまた料理を作ろうなどと考えないだろう。 それだったらもう少し寝ててもいいかもしれないと思っていた。 どうせ先生もまだ起きないだろうし、と。 ただ、何時もより布団が暖かい気がした。なんと言うか、人がもう1人居るような。 もぞっと動くと、足に何か当たる。ペタペタ触ると、人の肌のような感覚がある。 ユニシスはそんな馬鹿な、と現実逃避しようとした。 だが、自分の胸辺りで『うぅーん…』とか言って動いているこの物体は何だろう。 見ちゃいけない、そう思っても、やっぱり見てしまうのが人というものである。 ピッタリと自分に寄り添って、その人物は居た。 ユニシスはだんだん正常に作動し始めた頭をフル回転させて、考えた。 しかし思考は勢いに追いつかず、彼は口を大きく開けた。 「わぁぁぁぁぁぁっ!!!!なななななななんでお前がここに居るんだぁぁぁっ!!!」 その大声に、寝ていたアクア身を起こす。 この少女、寝起きは結構悪い。ヨハンには敵わないが。 「………うるさい、ユニシス。あさっぱらから耳元で叫ばないで」 「だから!!!何でお前がここに居るんだ!!!ここは俺の部屋で、俺のベッドだ!!!」 「しってるわ。でなかったら私、ここにいないもの。ここにいる理由は、昨夜しのびこんだから」 淡々と語るアクアに対して、ユニシスは耳まで真っ赤だ。 それでも一生懸命アクアに怒鳴っている。 「だからなんで忍び込んでんだよ!!!」 「それは…かんたん。いちばんがよかったからよ、ユニシス」 アクアの言っている意味が分からない。 やっと顔の赤みが引いてきたユニシスはそのままアクアを見つめた。 「『おはよう』、ユニシス。……やった、今日は私がいちばんよ、ユニシスにおはよう言ったの」 「……は?…お前、何言って………」 「だって、おはようっていちばんさいしょにいうんでしょ?ふうふって。ちゃんとしってるんだ から。ふふふ、…これでわたしとユニシスは今日一日ふうふよ」 何の事だか分からないが、物凄く今のアクアが恥ずかしい事を言った気がした。 今の言い方を聞くと、『夫婦になりたかった』と取れる気がして。 赤みが、ぶり返した気がした。 その時、部屋の扉をノックする音が聞こえた。入ってきたのは、勿論ヨハンで。 「おやおや。アクアさん、ユニと一緒に寝てたんですか。おはようございます」 「あ、せんせい。…今日ははやいのね、おきるの」 「え…えぇ、まあ…。そういえば今聞いてしまったのですが、2人は今日一日、夫婦なんですか?」 違う、とユニシスが否定する前に、アクアが「そうよ、ふふふ…」と肯定してしまった。 「そうですか。楽しそうですねぇ、私も混ぜてもらっていいですか?」 「先生っ!?何考えてるんですかっ!!???」 「いいわよ。じゃあ先生は…、ユニシスのお父さんね。お義父様ってよんであげる…」 「いやぁ、それもいいですねぇ。早く孫の顔が見たいです」 ヨハンもかなり乗り気のようだ。もはやこの状況を止める者は居ない。 ユニシスの抗議の声は、ここはキッパリ2人とも無視している。 アクアはニコっと笑い、こそっと言った。 「あしたも、あさっても、毎日いちばんに言ってやるわ。…わー、私って『おくさんのかがみ』 ユニシス、しあわせもの。…ちゃんと幸せにしてね」 そうやって言われると、妙に弱い。無駄にドキドキする。 もしかしたら自分は一生アクアには勝てないのかもしれないとも思う。 でもそれでもいいかもしれないとも思ってしまった。 この娘が幸せなら。一生そんな事は言わないと思うけど。 「…こんなにあいしてくれてるおくさんのために、夫はオムライスをつくるべきだとおもうわ」 そんな事を言うアクアに、思わず苦笑してしまった。 先刻まではあんなに人をドキドキさせる事を自然に言っていたのに。 今はこんな子供らしい事を言ってる。 でもどちらもアクアなら。まぁいいか、そんな気になる。 「わーかったよ。…作ってやるよ、オムライス。愛してくれてるらしい『おくさん』へ」 それを聞いたアクアは本当に嬉しそうだ。こっちまで笑いたくなってくる。 「…ユニシスも、私に言って?おはようって」 そういえばスッカリ忘れていた気がする。 もう今更な気がしたが、アクアの目はその言葉を求めている。 「あぁ……、おはよう、アクア」 幼い2人のそんなやり取りをヨハンはずっと見ていた。優しい眼で。 こんな短い言葉だけど、それ故に、何よりも大切な気がした。 (この2人には、…こんな風に幸せになって欲しいものです…) その時やっと日が昇り始めた。魔法院を、朝日が包んだ。 ++あとがき++ あーもーなんだかなー。な葛餅まりんです。まりんなのにアクア担当です。 初ファンタですよ。本当に。私はユニアク・ブルアクファンです。だからそっち方面が多いかなぁと。 ちなみにアクアは全EDコンプしました。えぇ、死ぬ気でしましたとも。 何かシリウス様出てるけど、彼は動かしやすいキャラなので。 でも楽しく書かせていただきました。期限短すぎだけど。 では、この辺で。 2004.11.8 |