雪が消え、ソラ光り輝く時


何の前触れも無く、ひらひら舞い降りた蝶


それは、きっかけ


今までの事が、変わる予兆…









++ソラ見上げれば++



今日もノイゼンは雪が降っている。
人気なく、静まり返っている広場に、扉の開く音がかすかに響く。
扉から顔を出した老人は、余りの寒さに顔を顰め、中に居る人に話しかけた。

「おぉ…今日も冷えているのぅ…。わざわざすまなかったね、先生や」

「いいえ。何とも無くてよかったです。ではお大事に」

にっこりと穏やかな笑顔を浮かべ、一人の女性が家から出てきた。
白衣を見に包み、いつも着けている赤いマフラーに顔を埋め、雪の中を歩き出す。
彼女はアニー・バースと言った。現在ノイゼンで唯一の医者である。
どんなに吹雪いていようが、酷く冷える夜であろうが、必要あらばアニーは必ず駆けつけた。
そして優しく看護し、適切な治療を施していく。
街の人達はアニーに感謝し、温かく迎えてくれた。
もともと他所から来たアニーを、ここ1年でスッカリ受け入れてくれた。
アニーにすれば、皆の温かい声が、凄く嬉しかった。
医者になってよかった。人を救える人になってよかった、と思うのが、嬉しかった。

「…こんな気持ちになれたのも、あの時の皆のおかげ……」

もう、随分会っていないが大切な人々。
アニーに、何が大切かを教えてくれて、共に戦った人々。
その日々はもう色褪せて、思い出になってしまったけれど。
決して忘れる事は出来ない数ヶ月だった。そしてこれからも決して忘れないだろう。
ずっと残っている、ずっと隠してた想いと一緒に。

「………皆、今頃元気かな?マオとティトレイさんは、心配ないだろうけど。ユージーンもマオと一緒だから大丈夫だろうし、
ヒルダさんは子ども達と幸せになってるといいな」

世界を共に旅して回った仲間たちを一人一人思い出す。
元気にしているだろうか。全然連絡を取ってないから、想像しかできないけれど。
最後にふっとよぎる、無表情の横顔。
最初は怖いと思ったけど、一緒に居るうちに、それだけじゃない事が分かった。

「………ヴェイグさん、元気かな?…クレアさん、一緒だろうし、きっと幸せだよね…」

そう思ったら、はぁっと重いため息を吐いた。ため息は外気に触れ、真っ白な煙になる。
幼馴染の女性を取り戻したあの時の表情を、アニーは決して忘れられなかった。
もしかしたらあの旅の日々より鮮明に覚えているかもしれない。
大切そうに、愛おしそうに抱きしめていたあの表情。
あの瞬間、あの表情が決して自分には向けられない事が分かった。
自分には決して、彼をあんな表情にさせることは出来ないから。
そんな事を考えたら、目頭が熱くなるのを覚えた。思わず手で顔を押さえる。

「…嫌だな、あの時、あれだけ散々泣いたのに。…3年経ってもまだ、忘れられない、なんて…」

自分でもどんなに未練がましいか分かっている。
子供と同じだ。自分の欲しいものを、何時までも強請る様に、諦めをつけない。
だから、逃げたのだ。ヴェイグ達の傍に、居たくなくて。
どんどん自分の心が醜くなっていくのが分かったから。

「…逃げて、それでも諦めつかないなんて、………馬鹿みたい…」

誰も聞いてない、独り言。
アニーは頭を横に振った。この事を頭から消し去る為に。そして空を見上げた。
その時、不思議な事が起こった。ぴたっと雪が止んだのだ。

「………え?」

急に降り止む事は、まずありえない。ほんの少し前はあんなに降っていたのに、だ。
すると突然、辺りが光り輝いた。
その光は徐々に輝きを増し、とうとう目を開けておく事が出来なくなってしまった。









やっと光が消え始め、目を開ける事が出来るようになった。
どのくらい自分が目を瞑っていたのか分からなかった。
完全に光が消えると、また、思い出したかのように雪が降り始める。

「な…一体何が起こって…?あの光は…?」

わけが分からず、また空を仰ぐ。すると、一点の黒い点が降ってくるのが見えた。
雪を同じくらいの速度で。でも雪ではない。
それは徐々に徐々に降ってきて、そしてだんだん形を現していった。
黒い点だったのが、赤色に見え始めた時、アニーは叫んだ。

「……っ人!?しかも子供っ!!!」

赤い色が人間、子供だと気が付き、アニーは駆け出した。
子供の位置を大まかに予想し、着陸ポイントを割り出す。
子供はゆっくり降りてきた。アニーはそっとその子供を空から受け取るように抱きとめた。
子供は、少女のようだった。赤い服と帽子を身に着けている。
そして瞳を閉じて、眠っていた。

「…本当に、子供。…どうして空から…?」

そう考えたが、ふと自分が物凄く寒い雪原に立っている事に気が付いた。

「大変っ!この子が凍えちゃう!!…とりあえず、宿屋に戻りましょうか…」

アニーはせめてと思って自分のマフラーを少女に掛けてあげた。
そして街の宿へ急ぎ足で向かった。








少女は昏々と眠り続けた。
その間、アニーはずっと少女の看病をしていた。
そして少女が降ってきて3日後の夕方、少女は目をゆっくり開いた。

「よかったっ!!!やっと目を覚ましてくれたんですね!!…大丈夫ですか?何処か痛いところは、ありませんか?」

「……………」

少女は答えなかった。ただ、まだ焦点の合わない瞳でアニーをじっと見つめている。
やっと瞳からぼんやりさが抜けたとき、少女は布団で顔の半分を隠してしまった。
ちょっとだけ出ている目が、またアニーをちらっと見ている。
最初は少し驚いたが、アニーは少女が恥ずかしがっているだけだと何となく分かった。
それに不安なのだろう。イキナリ目が覚めたら知らない所に知らない人と居るのだ。
せめて不安を除いてやりたいと思い、アニーは笑顔で話しかけた。


「初めまして。私はアニー・バースと言います。…あなたのお名前を教えてくれますか?」

そして子供の診察用に作ったウサギの人形を取り出す。
アニーは器用にウサギの人形を動かし、ぺこんとお辞儀をさせてみた。
予想通り、少女はウサギ人形を目にして、不安の色を少し薄めた。効果は絶大だ。
アニーはそのウサギ人形を少女に渡し、もう一度名前を尋ねた。
少女は嬉しかったのだろう、人形を一度ぎゅーっと抱きしめ、ポソっと何かを言った。

「……深紅…って言うの、お姉ちゃん」

「深紅ちゃん、って言うんですか。可愛い名前ですね。…あとは、お家が何処か、分かるかな?どんな名前の街だったーとか、教えてもらえる?」

少女、深紅はまた少し黙り、考えて、首を横に振った。

「おうちがあるところ、わからない?じゃあ、おうちの人、どんな人だか分かる?」

深紅は先ほどと同じくらい考えて、また首を横に振った。

「…分からない。………私は『深紅』って事しか、思い出せない…の」

その言葉に今度はアニーが考える番だった。

「…記憶障害ですね、多分。でも、もしかしたら一時的なものかもしれないから、大丈夫よ、心配しないでも」

こくん、と深紅は頷く。
でも深紅の不安は、薄れた様子は無かった。

「…だから、記憶が戻るまで、私と一緒に暮らしましょう?もし記憶が戻ったら、
お家まで私がちゃんと送ってあげますから。…いいですか?」

また深紅はアニーを見つめた。悪意が無いか、確かめるように。
アニーは微笑んだ。何も心配しなくていいよと言うように。
それを見て、深紅は口を開いた。
まだ布団で顔を隠していたけれど。

「………うん。……よろしく、おねがいします、お姉ちゃん…」

「うん。よろしくね、深紅ちゃん」

もう一度、アニーは微笑んだ。
アニーには、深紅が少し、笑ったように見えた。








奇妙な共同生活が始まる


それと同時に、何かが動き出す


それは幸せへの予兆か、それとも………








++++++++++++++++++

葛餅まりんです。
こんな奴の話に最後まで付き合ってくださってありがとうございます。
とうとうやってしまいました。かなりイキオイで行動してます。
先のことなんて全く考えてないのは何時もの事です。
でも、どうしても書きたくて、書きたくて。
自己満足の為に書くのもいいかなぁと思いまして。
はい、一応書いておきます。
これはヴェイアニです。オリキャラとか出てきちゃっても、ヴェイアニです。
でもどう見てもヴェイグ←アニーですね。まぁ最初はそんなもんですよ(は?)
この話を進めるためには、どうしてもオリキャラが必要だったんです。
私はオフィシャルキャラだけで話を進めるのがかなり苦手な人間なのです(妄想力が激しい)
かなり自分の欲望を満たす為のお話ですが、ちらっと興味を沸いてくださった方、
お付き合いお願いします。



2005.1.15