心からのさよなら








―――――ずっと一緒に居てくれた
          貴方に贈る、最後の私―――――



ねぇ、覚えてる?ロイド。
初めて会ったとき、ロイドは笑顔で『よろしく』って手を出してくれたんだよね。
私がマナの神子って知っても、全然態度も変わらなかった。
授業中寝てて先生に怒られて、皆に笑われて、でも好かれてるロイドがどんどん好きになったよ。
私、いつもぼけぼ〜っとしてたから、ドジな事も色々したけど、いっぱい庇ってくれたよね。
ロイドが教えてくれる遊びは何時もドキドキだったんだよ。
ただジーニアスとは危ない遊びをしたのに、私を連れて行ってくれない事が残念だったんだ。
でもそれは私を心配してくれたからなんだよね、ちゃんと知ってたよ?
『ごめんね』って言うと、頭をくしゃっと撫でて『謝んなよ』って言ってくれたよね。
ロイドのその一言が、どれくらい嬉しかったか分かる?
知ってたかな?前にあげたお菓子の中に、ロイドのだけハート型のがあったんだよ。
随分前はまだ作るの下手くそで、でもロイドが全部食べてくれたんだよね。
あの後暫くロイド、具合悪くなっちゃって凄く心配したんだよ?
だけどね、凄く嬉しかったの、ごめんね?あ、また言っちゃった。てへへ、失敗失敗v



宣託の日、一緒に居てくれてありがとう。
実は凄く緊張してたんだよ、凄く、震えそうだったんだよ。
でも、ロイドが一緒に居てくれたから頑張れたんだ。
その後ロイドの家に行って、夜にお話したよね。
凄くドキドキしてたんだよ。レミエル様とお話した時よりも、ドキドキしてたもん。
でもね、これでロイドとお別れなんだって思ったら、泣きそうになっちゃった。
村を出た時、一番悲しかったのは貴方にもう会えないかもって思ったこと。
でも貴方は、追いかけてくれたよね。
とっても、とっても嬉しかったんだよ。
それから一緒に居られる事になって、私ホッとしたんだ。
危険な旅だって分かってたのに、ロイドと一緒に居られると思った、やっぱり嬉しかった。



初めての封印を開放した時、初めて倒れた時。
凄く辛くて、でもこれが試練なんだなって思って。
でも身体の痛みより、ロイドの心配そうな顔のが気になっちゃって。
心配かけて、ゴメンネって言ったら『謝るな』ってまた言われちゃった。
倒れた後から、私の味覚は無くなった。
だけどこれ以上皆に心配かけたらいけないって思って、ご飯、食べたんだよ。
でもやっぱり少ししか食べられなくて。だって、何の味もしないんだもん。
大好きだった料理の味も、苦手だった物の味も、皆一緒になっちゃった。
天使になる事が、どれだけ大変なのか、ちょびっとずつ、分かった。
泣きたくなるくらい、悲しかった。
もう、ロイドとお料理できないね。だってお砂糖もお塩も分からないもん。
あの日から、私はロイドと同じ『味』で笑う事が出来なくなった。



二つ目の封印を解いた時から、私、眠れなくなった。
目を閉じても、意識はそのままで。皆の寝息を聞いて。
キラキラ光る星を、一人で見てるのは、寂しいんだね。
二人で見てるのは、あんなに好きなのに。
星が、月が、動いて。朝日が昇る。
そんな時間まで起きてるなんて、特別な日だけだったのにね。
でもね、それでも私、普通に歩けるの。眠くならなかったの。
ロイド、それを知った後、怒ったよね。『何で言わなかったのか』って。
だけどあの時そう言ったら、ロイドきっと私と一緒になって『起きてる!』とか言ったでしょ?
それは、嫌だったの。ロイドが倒れちゃうもん。
そしてその日から、私は夢が見られなくなった。夢だけでも、見たいものもあったのにな。
ちょっと残念だったんだ。



三つ目の封印は、私から痛覚や感覚を奪っていった。
その時、とうとうロイドにバレちゃったんだよね。
私がそんな身体になっちゃったって知って、ロイド、凄く悔しそうだった。
本当にロイドは、優しいよね。私、ロイドのそんな所、凄く好きなんだ。
でも、私、もう本当に天使に近づいて来てるんだなって。
寒いも、暑いも全く分からない。
そんな当たり前のことが、こんなに大切な事だったなんて、知らなかった。
ぎゅっと、ロイドが手を握ってくれた事すら分からない。
一緒に、温まる事も出来ないんだね。
一緒に、泣く事も出来ないんだね。
何だか、切ないよね…。



最後は、声が出なくなった。
皆と、お話しすることすら出来なくなったんだよ。
だんだん、悲しい事や辛い事の感覚さえ失われていく、そんな感じみたい。






ねぇロイド、もしね、私がマナの神子じゃなかったら、どうなったと思う?
世界再生の旅に出ないで、ロイドとジーニアスと一緒に、ずーっと遊んでいられたらって、偶に思っちゃうんだ。
それがいけない事だって、分かってるんだけど、どうしてもそう考えちゃうの。
そうしたら、私、花嫁さんになりたかったな。
綺麗なドレスを着て、皆に祝福される、花嫁さんになりたかった。
我がまま言っていいっていうなら、隣に居るのはロイドがいいなv
決して無い未来だって、分かっていたけど、何度も夢に見てたよ。
でももうその夢を見る事は、永遠に出来ない。
私は明日、天使になるから。
皆が、ロイド達が住む、この世界を救う為に。
私がずっと付いていた嘘。最後の最後まで言えなかった事。
きっとロイドは、凄く怒るだろうけど。



私は明日、天使になります。

私は明日、この命を捨てます。

やっぱり死ぬのは少し怖いけど。

でも私はここを守りたいから。掛け替えの無いものだから。

だから、だから

おやすみなさい。そして、さようなら、ロイド。


















++あとがき++

ども、葛餅まりんです。長い。書いてて疲れた。ってかコレット独白ですか。2作目が。
あずさ姉さん(笑)に『次はロイコレ書いてよ』と言われて書いてたですが。
私、シンフォニア殆どロイコレで見てたんで、今更書くことが無い事に気が付きました。
悩んだ結果。テセアラ行く前の、神子としての役目を果たす直前のコレットでも書こうかな、と。
そしてこんな風になっちゃったんですねぇ。

コレットが命を捨てる事によって、世界が救われるっていうのは何となく気が付いてましたけど、
結構泣けるモンなんですよ、これが。
たった16歳の女の子が、ここまで決断するには、色々心の葛藤があったんだろうなぁと思いました。
まぁそれがこの作品に繋がったってわけですよ、ハイ。

でもまぁ、ロイドの事ばっかりだねぇ、うちのコレットちゃん。
そんな彼女も世間の荒波に飲まれて色々強く図太くなっていくのです、ハイ。
何を言ってるのか分からなくなってきた時点でもう終わりにします。では。


2004.11.7


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